私たちの研究するラダーポリマーがどのような応用可能性があるかについて、その一例をご紹介します。
これまでのプラスチック材料は、「壊れたら交換」「使い捨て」という考え方のもと、大量生産・大量消費を前提に社会に広く普及してきました。その一方で、廃棄物の増加や環境汚染といった問題が顕在化しています。こうした背景から、近年は環境への影響を抑えつつ、長期間安心して使える材料の開発が重要になっています。 高耐久・長寿命が期待されるラダーポリマーは、分子がはしご状につながった安定な構造をもち、非常に壊れにくいことが特長 です。この性質から、簡単に交換や修理ができない宇宙材料をはじめ、海底ケーブルや地下配管材、歴史的建造物の長期補修材料、さらには体内に埋め込む医療材料など、幅広い分野での応用が期待されています。加えて、使用後に確実に回収・再利用する技術と組み合わせることで、資源を無駄にせず、環境負荷を抑えた持続可能な材料 としても注目されています。
私たちの身のまわりにある工場や発電所では、二酸化炭素(CO₂)や窒素、水素など、さまざまな気体が大量に使われています。これらを分離・精製・回収するために、これまで蒸留や溶液吸収といった膨大なエネルギーを必要とする方法が用いられてきました。しかし、CO₂排出やコストの増大が課題となっています。 そこで注目されているのが、薄い膜を通すだけで必要な気体を選び分ける「気体分離膜 」です。私たちの研究室では、分子がはしご状につながった安定構造をもつラダーポリマーに着目しています。この材料は分子レベルで通り道の大きさを制御できるため、高い選択性と透過性を両立した次世代気体分離膜への応用が期待され、脱炭素社会や水素社会の実現に貢献 できると考えています。
CPL材料
私たちの研究室では、「光のねじれ」までデザインできる発光材料の研究を行っています。普通の蛍光は、光の明るさや色は変えられても、光の揺れ方(偏光)はあまり意識されていません。しかし、光の振動の向きがらせん状に回転する「円偏光」という状態があり、右巻き・左巻きの2種類が存在します。CPL 材料の特徴は、「光の色や明るさ」だけでなく右巻き・左巻きという“利き手”までコントロールできることです。 この性質を活かして、さまざまな分野への応用が検討されています。
メガネなし 3D ディスプレイ
右巻きと左巻きの円偏光をそれぞれ左右の目に送り分けることで、メガネをかけなくても立体的に見えるディスプレイを実現できます。 CPL を出す発光材料を使えば、薄くて省エネルギーな次世代 3D ディスプレイや VR/AR デバイス につながると期待されています。
偽造防止インク・情報の暗号化
見た目はほとんど同じインクでも、「右円偏光だけで見える模様」「左円偏光でだけ読める文字」を印刷することができます。 これを利用して、紙幣や身分証明書の高度な偽造防止技術 や、専用フィルターを通さないと読めない秘密の QR コード・バーコードなどへの応用 が考えられています。
バイオイメージング・キラルセンシング
生体分子のまわりで CPL を発するプローブを設計すると、「どのくらい右利き・左利きか(キラリティ)」の情報を光として読み取ることができます。 これにより、タンパク質や糖鎖などの立体構造を調べる高感度なイメージング技術 や、医薬候補分子のエナンチオマーを識別するキラルセンシング への応用が期待されています。
私たちの研究室では、ヘリカルラダーポリマーを用いて 「分子のらせん構造 → 光のらせん(CPL)」へと情報を写し取る材料を設計し、こうした応用につながる新しい発光材料の開発に取り組んでいます。